清水一行の本

大物
 第1部 相場師の巻
 第2部 独眼流の巻


 清水一行

 徳間文庫
 (1)ISBN:4195988209
 (2)ISBN:4195988217
独眼流といえば立花證券の石井久氏で、この小説も石井氏がモデルなのだが、 そんな事を知らなくとも成り上がり物語として楽しめる小説である。 主人公の変人振りがいい味を出している。 実際にも結婚したのに婚姻届を出すのを忘れていたとか、エピソードは色々とあるらしい。 しかし物語を通じて読後にあまり印象が残らないのは、主人公の成り上がりが順風満帆すぎるせいだろう。 モデルになった人がまだ健在なので、その点についてはある意味では仕方が無いのかもしれない。 山瀬正則氏、佐藤和三郎氏、山崎種ニ氏などがちょい役で登場している。
女帝 小説・尾上縫

 清水一行

 朝日新聞社
   ISBN:4022566701
料亭の女将尾上縫が資金繰りのため東洋信金支店長と共謀し4000億円以上の預金証書を偽造。 当時このニュースを聞いたときには、料亭の女将というのと4000億円というのが全くかみ合わなかった記憶がある。 この小説がどこまで真実かは知らないが、結局は、 男を利用することで仲居から料亭の女将という夢を実現した主人公が、 今度は株屋や銀行やノンバンクに利用されてバブルの崩壊と共に破滅するという、 なんとも因果応報な物語(実話)である。 本人も破産してかえって安心したのではないかと想像する。現在は元気に商売をされていると聞く。 それにしても尾上さんの当時の借入れ総額は2兆円を越えており、個人の借金としては記録的なのではと思う。
金まみれのシマ

 清水一行

 角川文庫
   ISBN:4041942225
ユタカ投資顧問の主宰者である八島は、一千億円という資金を動かす仕手グループの総帥でもあった。 八島は、保有する立花倉庫の株をめぐり、会社側と仕手側から買い取りを持ちかけられた。 市場で買った株は市場で売却する、それが八島の相場師としての美学である。 株を手放さない八島は、否応無く仕手戦の渦に巻き込まれて行く。 やはり清水氏の株小説は面白い。 主人公の八島が、お茶目な所もあるいい人で好感が持てる。
買占め

 清水一行

 角川文庫
   ISBN:4041463025
まだ買占めに反社会的行為というイメージがついてまわった頃の小説である。 山脇証券の美川は熱海筋の依頼を受けて株の買占めに乗り出すが、 依頼を実行するだけではなく、機に乗じて自らの野望をも実現しようとする。 株の買占めで難しいのは最後の処理である。 集めた株券をめぐり大手証券や銀行が圧力を加えてくるなか、 買占め派は果実を得る事ができるのか? 最後の急転直下の展開がすばらしく爽快である。
擬制資本

 清水一行

 集英社文庫
   ISBN:408748324X
誠備グループの加藤嵩による宮地鐵工所の株式買占め事件をモデルとした小説である。 この小説を読むと、株式の商品とは違った難しさが良くわかる。 商品の場合は玉締めで現物を受けても、先の限月なり実需なりに繋いでおけば何とかなるが、 株式の場合には、新たな引き受け手が現れない限りは自転車操業になってしまう可能性が高い。 それはともかくとして、図書館で日経の縮刷版と照らし合わせながら読むとまた面白い。
兜町物語

 清水一行

 角川文庫
   ISBN:4041463742
デビュー作の「小説 兜町(しま)」の続編とも言うべき作品。 ルポライターである主人公の阿部は山一証券経営危機のスクープ合戦に敗れ小説家を目指す。 そんな彼は経営再建に血道を上げる興業証券の谷川に惹かれていくが…。 主人公の阿部は小説「兜町機関説」を出版するが、言うまでもなくこれは清水一行の「小説 兜町(しま)」のことである。 そういう意味でこの作品は作者の自伝小説であるとも言える。
小説 兜町(しま)

 清水一行

 角川文庫
   ISBN:4041463254
清水一行のデビュー作。神武景気、岩戸景気に生きた相場師、興業証券営業部長の山鹿悌二の物語。 一部のスターが証券界を引っ張る古き良き時代が終わりを告げた昭和三十年代後半。 時代に流され没落していく主人公の様子が、前半の華々しい活躍に対照的で悲しい。


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