ノンフィクション

マーケットの魔術師

 ジャック・D・シュワッガー

 日本経済新聞社
   ISBN:4532160502
相場は孤独である。実力のあるトレーダーは普通はあまり手法を明かさないから、 相場を張ろうとする者はみな自分自身で道を切り開いてゆかねばならない。 しかしせめて上手い人からヒントだけでも聞いて、 あわよくば自分の相場力向上の糧にしたいと思うのは人情であろう。 そのような人達にとってこの本は、まさに待ち望んでいたものと言える。 本書はトップトレーダー達へのインタビューによって構成されている。 インタビューしている著者自身がトレーダーであることから、 質問も一般のトレーダーを代弁する非常に適切な内容になっており、 何とかトレードに役立つ情報を引き出したいとの気迫が感じられる。 個人的にはエド・スィコータ氏の項が特に印象に残った。
天才たちの誤算

 ロジャー・ローウェンスタイン

 日本経済新聞社
   ISBN:4532163919
LTCMの栄光と挫折を描いたノンフィクションである。 前述したダンバー・ニコラスの「LTCM伝説」が、取引手法の詳細やLTCMの会社形態、 社会における位置づけなど、分析的な視点から書かれた本であるのに対して、 こちらはどちらかと言うとLTCMに関わった人間について追求した本であると感じられる。 LTCMのパートナー達は何を思い、何を目的としてLTCMを設立し運営していたのか?  彼らは一生かかっても使い切れない巨万の富を得ながらも、 更にそれを自分達のファンドに再投資していた。 ここまで来ると、もはや金のためとは言えないだろう。 本書のなかでも示唆されているが、 彼らは自分の頭脳の有能さを証明したかったのであり、金は単なるその尺度に過ぎなかったのだと思う。 正直言って自分にも似たような部分があるので、あまり他人事と思っては読めない本である。
LTCM伝説

 ダンバー・ニコラス

 東洋経済新報社
   ISBN:4492652760
金融工学の草創期に、伝説的なトレーダーであるジョン・メリウェザーのもと、 マイロン・ショールズやロバート・マートンら経済学の英知を結集して結成されたのがLTCMである。 彼らの投資戦略は、割高か割安な債権を見つけると、そのリスクを精密に分析して分割し、 長期債や擬似オプションなどでヘッジするというものであり、 基本的には仕掛けと同時に利益が確定するような手法である。 LTCMは華々しい成果を上げ、無リスクの利益を好きなだけ汲み出せるかと思われた。 しかし実はそれは流動性が常に確保されるという仮定の下でのみ成立する手法であったのだ。 崩壊の兆しはある日突然やってくる。 今日まで市場は正常であった、だから明日も市場は正常に機能するだろう。 そう思っていた彼らを誰が批判できようか。 LTCMが、自らのポジションの大きさと流動性の欠如により破綻する様子は非常に痛々しい。 レバレッジの高さが更に追い討ちをかける。 これは先物トレーダー、特に鞘取り屋さんにとっては身に詰まされる物語である。 くれぐれも満玉と板の薄い市場には気をつけるべし。
メイクマネー!

 末永徹

 文芸春秋
   ISBN:4163554904
日本のデリバティブ黎明期にアメリカの投資銀行、ソロモン・ブラザーズ証券に入社した著者は、 金を愛せ!の号令の元に市場に取り組み、相場師として成長してゆく。 今では考えられない事であるが、当時は日経平均と日経平均先物が数百円以上も乖離する事があり、 簡単な裁定取引で巨額の収益を上げる事ができた。 オプション上場の際にも理論値と乖離する値が付く事が多く、それが彼らの収益につながった。 日本はいわばカモられ放題だったという事である。 当然の事ながら市場の効率性が高まっていくにつれて収益機会は減少し、 ついにはソロモンはトラベラーズグループに吸収されアービトラージ部門は廃止に追い込まれる。 著者はソロモンが消える半年前に退社し、悠々自適の生活を送っているそうだ。 結構なことですな。
相場師一代

 是川銀蔵

 小学館文庫
   ISBN:4094034714
是川銀蔵氏の自伝。 あるライターが勝手に自分の一代記を出版してしまい、非常に真実から離れた事も書いてあるので、 それを正すために自伝を書いたと前書きにある。 これは津本陽「最後の相場師」のことであろう。 是川氏は何度も事業を起こしては無一文になるのだが、 経験したり学んだ事は頭の中に残るし、培った人脈というのも財産となって残る。 この自伝を読むと、次々に新しい分野に挑戦していく際に、 経験と学習と人脈がいかに役に立ったかがわかる。 これは簡単に真似の出来る事ではない。 それだけに、株で成功するのは不可能に近いという事実を伝えるために筆を取ったという、 是川氏の言葉にも説得力を感じるのである。
メタル・トレーダー

 A.クレイグ・カピタス

 新潮文庫
   ISBN:4102263012
メタルトレーダーと呼ばれる人間たちがいる。 彼らにとっては金属、原油、武器など、地球上のあらゆる商品が売買対象となる。 大手商社フィリップ・ブラザーズの見習いトレーダーとしてこの世界に足を踏み入れたマーク・リッチは、 取引に対する類稀な才能によって、ついには年商百億ドルのマーク・リッチ帝国の総帥にまで伸し上がった。 イランのアメリカ大使館人質事件の最中にホメイニ政権と石油取引を結び、 ナイジェリアの原油を敵対する南アメリカに売る。 利益の機会があれば悪魔とさえ喜んで取引する彼の一貫した姿勢には戦慄を覚えるほどだ。 金儲けに対する満腹中枢が壊れているとしか思えない。 著者はこの本を書くために一年間トレーダーの世界に入って、実際に実務を経験したという事である。 それだけに良く取材できていると思う。翻訳は読みにくい直訳が多くてイマイチだが。
マネートレーダー
 銀行崩壊


 ニック・リーソン

 新潮文庫
   ISBN:4102176217
巨額損失によりベアリングズ銀行を倒産させてしまったトレーダー、ニック・リーソンの獄中記。 話の筋としては大和銀行巨額損失事件の「告白」とほとんど同じなのであるが、 自分が悪かったのだと書いておきながら、周りに責任転嫁する姿勢が目立ち、非常に後味が悪い。 最後に逃げ出したのも最悪である。 銀行を潰して多くの従業員の生活を狂わせたのだから、謝罪の言葉の一つくらいあっても良いと思うのだが。
鼠たちの祭

 「人の砂漠」に収録

 沢木耕太郎

 新潮文庫
   ISBN:4101235015
商品相場の相場師に対する沢木耕太郎のルポルタージュ。 登場するのは、阿波座のアパッチ、桑名筋こと板崎喜内人などなど。 取材が進むにつれて、著者が相場師という人種に魅了されていく様子が文章からもうかがえる。 相場師は、なぜそこまで相場に固執し、負けても負けても資金がある限り張り続けるのか?  そんな疑問も取材の最後には何となくわかってくる。 個人的には沢木耕太郎のノンフィクションは好感度が高い。 それは、取材対象の人間に感情移入しながらも、感情に流されるのではなくて、 限界まで相手を理解し、それを出来るだけ脚色しないで文字にしたいという情熱が感じられるからだ。
ピット・ブル

 マーティン・シュワルツ
 デイブ・モリン
 ポール・フリント

 パンローリング
   ISBN:4939103250
ウォール街のチャンピオントレーダーと称されるマーティン・シュワルツの成功物語。 この人は湾岸戦争の時に石油と金を売りまくって巨額の儲けを叩き出したのだが、 もちろん、その話も載っている。やはり、ここぞという時に集中投入できるようでないと、 相場師としてはやって行けないのかもと思う。 物語も非常にエキサイティングだが、 最終章として「シュワルツの売買テクニック」という章があり、 これがまたとても為になる。 個人的にもかなり影響を受け、感謝している。
市場の神々

 堀内昭利

 ゼネックス
   ISBN:4795249156
これは面白い。外銀のディーラーで日本支店長にまでなった著者が、 その相場との闘いの日々を書いたものである。 同じディーラーでも「生き残りのディーリング」の矢口新氏とこうも相場への取り組みかたが違うのか、 と驚いてしまう。この著者の場合は文字通り「闘い」であって、その分人間味があって物語として楽しめる。 あと読んでいて、人を育てる事の難しさというのが印象に残った。
告白

 井口俊英

 文春文庫
   ISBN:416762401X
大和銀行巨額損失事件で逮捕された著者が、 事件の経緯とその後の顛末について赤裸々に暴露する。 まさに事件の首謀者による手記なだけに切迫感に溢れている。 日米の金融当局の姿勢の違いなど、この事件を生んだ土壌についても言及されており、 それは結果的にその後の日本の経済政策に対する警鐘となっている。 この事件については、発覚してニュースになっていた頃から興味があったので、 なかなか面白かった。 それにしても、この人は物書きとしての才能があると思う。
賭ける魂

 月本裕

 情報センター出版局
   ISBN:4795827222
ヒシアマゾンの母、ケイティーズの馬主としてイギリス競馬会に彗星のごとく登場し、 数年の間に200億円を競馬で失った男。 日本のワラント債で莫大な富を得、その後のブラックマンデーで全てを失った男。 史上最大のギャンブラーといわれるテリー・ラムスデンは、 なぜにかくもギャンブルに拘り、賭け続けることを止めなかったのか。 ギャンブルをする人間の本質を追求した問題作である。 テリー・ラムスデンへの直接取材ができなかったというのが少し残念ではあるが。
銅マフィアの影

 日本経済新聞社
   ISBN:4532146348
住友商事の銅の不正取引による巨額損失事件、いわゆる住商事件に関するドキュメント。 LMEにおいて「5%の男」と呼ばれた住商の非鉄金属部長、 浜中泰男がいかにして巨額の不正取引へのめり込んで行ったのかを迫真の取材で迫る。 編集部はこの事件の背後に、表社会の人物を巧妙に巻き込んで資金を吸い上げる、 いわゆる「銅マフィア」の存在を感じ取っているようだが、 結局、核心に触れる事ができなかった。仕方ないが惜しいと思う。
相場師列伝

 東洋経済新報社
   ISBN:4492710078
大相場を作りあげ、そしてまた、相場に呑み込まれて行った相場師たち。 桐一葉落ちて天下の秋を知る、の石井久、近藤紡の近藤信男、 山一の大神さん、それに相場の神様、山崎種二ら8人の相場師の物語が描かれている。 フィクションには無い、事実というものにだけに宿る臨場感が感じられて素晴らしく面白い。
大破局(フィアスコ)

 パートノイ・フランク

 日本経済評論社
   ISBN:4198608156
証券会社モルガン・スタンレーにヘッドハントされた著者はデリバティブ商品の開発と売り込みに携わるようになる。 そこで開発される商品は、適正価格も容易に分からないような複雑極まりないものであったのだが、 彼らは高い手数料を取ってそれを販売して荒稼ぎをしている。 日本では、このようなデリバティブが会計上の損失の先送りに利用されており、 いずれ次々と巨額損失が明らかになるであろう。という内容。 外資にカモられる日本企業の有様が赤裸々に暴露されている。


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