日本の財政の今後

2010/1/1

2010年度の予算案は、戦後初めて新規国債の発行額が税収を上回るという悲惨な状態になってしまった。 予算の半分以上を借金で補うという異常事態が持続可能なはずもなく、 いずれ何らかのハードランディングは不可避であると思われる。 そこで、今後どのようなシナリオが想定できるか考えてみることにする。 その前に、日本の現状についてデータをまとめておきたい。

まず、日本国の国富は2800兆円ほどである。国富というのは、 土地や建物や機械やソフトウェアなどの非金融資産の合計であり、 国債や株式や現金などの金融資産は、国全体で見ると相殺されるので含まれてはいない。 例えば、現金や国債は所有者にとっては資産だが、国にとっては借金となる。 株式は、会社にとって負債となる。

金融資産および負債は、個人金融資産が1400兆円、内訳は、預金が700兆円、保険や年金の積立金が400兆円、 株式・債券が300兆円である。一方で、住宅ローン等の個人金融負債が400兆円となっている (個人金融資産には個人事業主の事業資金も含まれているので、実際の個人金融資産は更に少なくなる)。 民間法人の金融資産は800兆円、うち預金が200兆円、株式・債券が200兆円、 それに政府の金融資産が500兆円というところである。

さて、問題の債務であるが、国と地方の長期債務残高が800兆円、 それに特殊法人等の債務を合わせると、国全体の長期債務残高は1100兆円程度と推定される。 ここで、これらの債務は債券によって調達されているわけだが、その所有者の内訳ははっきりとはわからない。 しかし国債に関して言えば内訳がわかっていて、保有内訳はおよそ、 銀行が35%、生保・損保が20%、年金が15%、日銀が10%、海外が5%、個人が5%、というところである。 これがそのまま1100兆円の内訳とすると、銀行が400兆円、生保・損保が200兆円、年金が150兆円、 日銀が100兆円、海外が50兆円、個人が50兆円ほど拠出していることになる。 結局、個人と民間企業の金融資産2200兆円のうちの45%程度は(銀行などを通じて) 間接的に国債等の債券を購入していることになる。

政府の金融資産は500兆円ほどあるが、これは実質的には取り崩せない。年金の基金と外貨準備が主であるが、 年金基金を取り崩すと年金制度が崩壊するし、外貨準備はドルで持っていて円に転換できないので (転換しようとするとドルが暴落してしまう)こちらも無理である。

日本の場合は、債務が国内で完結しているので、国内でどう帳尻を合わせるかの問題となる。 みんなで金融資産を2200兆円持っているが、最終的にそのうちの半分を没収することになる。 これは純粋に国内の問題なので、IMFが介入することもなければ、 これによって日本国が破産するわけでもない。 ただし、民間の金融資産の半分を没収するわけなので、かなりの混乱は予想される。 今後、どこまで債務が増えても大丈夫かは、 いわゆる国民性に起因する心理的な問題や社会制度の問題もあるので、 ケースバイケースと言うしかない。しかし無理を承知で考えてみることにする。

まずは、現状の、税収40兆円に国債新規発行40兆円などという予算を毎年続けていけば、 どうなるか考えてみることにしよう。 現在は投資環境が冷え切っている状態で、金融機関にとっては、遊んでいる資金を運用する先は国債しかなく、 事実上、国債消化に支障はない状態である。 金融が国債を買い、政府はその売却益で予算を組み、資金は公共事業(や各種手当て等) を通じて民間に流出し、それらの資金は最終的に銀行に預けられる。 例えば今後1000兆円分の国債を銀行が買うと、 現在の、民間の預金700兆円のうち国債購入に使われているのが400兆円という状態が、 民間の預金1700兆円のうち1400兆円が国債購入に使われている状態になる。 数字上はこのようにしていくらでも国債を発行することができるが、 国債を買えば買うほど銀行の総資産に対する貸出余力の割合は低下し、 更に国債の価格変動に対して財政基盤が脆弱になり、行動の自由度がどんどんと小さくなっていく。 どのあたりが限界かは不明だが、あと500兆円程度の消化は可能という気がする。 しかし問題は金額ではなく、持続可能性への信頼がどの程度続くかという点である。

そもそも、国債や通貨は政府の資産および徴税権を担保に発行されているのだが、 個人の預金が700兆円で民間企業の預金が200兆円なので、 長期債務の残高は既に徴収可能な水準を超えており、危険水域に入りつつあると見てよい。 現在は金融緩和でジャブジャブの流動性を供給しており、現在のデフレの状態ならば国債への需要は大きく、 金利が上がる心配は無い。しかしいずれ景気が回復してくると、 この過剰流動性は土地や株式に押し寄せることになる。こうなると相対的に国債のパフォーマンスが悪化し、 国債価格が下落して金利に上昇圧力がかかる。この場合、金利が上昇すると新規国債の発行が困難になり、 長期債務が加速度的に増加してしまう。しかし、かといって日銀が国債を買い支えて金利を下げると、 流動性バブルが収まらずインフレが進み、結局、金利も上がってしまう。 結局、どちらにしても金利上昇で国債の発行が不可能になって行く。 そうなると、最後は日銀が国債を引き受けるしか手が無くなるだろう。

市中消化だと貨幣流通量は増えないが、日銀が国債を引き受けると、 通常であればその分の貨幣を発行しなければならないので、貨幣流通量は増加させざるを得ず、 やはり最終的にはインフレになる可能性が高い。 その高金利のインフレ状態で更に無理に国債を発行しようとすると、 ジンバブエのようなハイパーインフレになる。 しかし、ハイパーインフレを起こしてしまうと国家と中央銀行の面子に関わるので、 恐らくここで国債発行に頼らない、 税収に見合った予算規模に強制的に変えざるを得ない状況に追い込まれるものと思われる。

以上は、現在の規模の予算を組みながら何も対策をしなかった場合である。 あらかじめ、あらゆる予算を削減して予算規模を縮小し、 消費税や相続税を上げて税収に見合った予算を実現するならば、実は過去の債務に関してはどうとでもなる。 一番簡単なのは、既発国債の利払いと償還を今後100年くらい停止するが、会計上は取得原価での計上を認める、 という措置である。もちろんそれ以後の国債発行は不可能になる。 国債デフォルトの外聞が良くないなら、例えば、政府紙幣を1000兆円発行して日銀が換金する、 もしくは市中の国債を全て日銀が買い取るという手もある。 そのままでは市中の紙幣が1000兆円増えてしまってインフレになるので、 金融機関に同額の資金を日銀の当座預金口座に積み上げさせて自由に使えなくさせる、等である。 これらの手は一度きりしか使えないし、その後は国債発行に頼らない、身の丈にあった予算を組まねばならない。 しかし、何もしなくてもいずれは、ハイパーインフレか予算縮小かの選択を迫られるわけなので、 早めに決断しておけば傷は浅くて済むだろう。

実際にはどのようなシナリオを辿るか、である。終着点はもはや決まっている。 最終的には、現在の半分の規模の、税収に見合った予算でやり繰りする正常な状態に戻ることになる。 今から思うととても無理に思えるが、20年前には当たり前のように出来ていたことである。 しかし、上で述べたような、早めに決断して予算を半分にするという政策は事実上は無理である。 傷は一番浅くて済むのだが、これをやると政権がもたないだろう。 よって、荒療治もやむを得ないと国民の大半が納得するまでは現状維持で行くしかない。

いずれ金利が上昇し、国債の新規発行が難しくなり、利払い費も増加し、必要資金を調達するために、 毎年50兆円、60兆円、70兆円と新規国債を発行することになる。景気が回復すれば税収も増えるが、 税収の伸びが国債発行額の伸びに追いつく可能性は低いように思う。 その後、かなり早い段階で日銀は国債を引き受けざるを得ない状況に追い込まれるだろう。 通貨供給量は増加し、国債の買い支えで流動性が供給され、実経済に資金が回らない状態で、 株や土地などの金融資産の価格だけが上昇していく。 いわゆるスタグフレーションが起きるだろう。

その後の一番楽観的なシナリオでは、インフレ状態にも関わらず予算規模は現状維持もしくは削減され、 課税は強化され、日銀による国債の買い支えで金利は低めに抑えられ、 インフレによって金額ベースでの税収が増加し、10年間で200%(3倍) 程度の物価上昇でソフトランディングするというシナリオである。 この場合、金利が物価上昇に追いつかないので、国民の預金が半分以下に目減りし、 長期債務を補填することになる。

しかし最もありそうなシナリオは、予算の削減が進まず、 金利上昇とともにスタートする長期債務の加速度的な増加で、 最終的に年率50%程度の物価上昇に何年か見舞われた後、もうこのままではジンバブエ状態になってしまう、 と財政の非常事態が宣言され、国債の利払い停止や償還停止、預金封鎖、資産課税、国家予算の大幅な削減、 各種税率の引き上げなどが行われて、一気に国家債務が帳消しにされる事態である。 一応、このシナリオを想定して投資行動を考えている。

いずれにしても、この一連の動きの中で、政治家、官僚、特殊法人、関係企業などを含む利権構造が一掃され、 規制緩和が進んで、官需主導の現在の日本経済が民需主導に転換できれば、 その後は明るい未来が待っていると思う。 今現在、特殊法人や特別会計の闇に民主党が切り込めないのも仕方がないと思うが、 いずれ来る財政の大整理のときに、全てを明らかにし、バッサリ切るには、 利権に浸かりきった自民党よりも民主党の方が適任だろう(比較の問題だが)。

ところで、今回の金融危機で明らかになったのは、外需依存の経済の脆さである。 日本はサブプライム関連の債権をほとんど持っていなかったにも関わらず、 アメリカや欧州よりも株式市場の下げ幅が大きかった。 当初はその市場の評価に首をかしげたものだが、今となっては納得する他ない。

基本的に、輸出超過の国には外貨が溜まり、外貨を自国通貨に転換する動きでどんどん通貨が高くなる。 その結果、いくら高性能の品物を製造しても為替で競争力を削がれることになる。 輸出超過の国は歓迎されず、最終的に通貨高で殺されることになる。 今回の金融危機で中国は海外に品物を輸出すると共に自国の消費を振興して輸入を増やし、 景気回復に貢献している。他国に物を輸出する国は疎まれるが、 一方で他国から物を輸入する国は歓迎され、国際的な影響力が増大する。 例えば日本車は、アメリカ人にとっては好ましい存在でも、アメリカ政府にとっては忌むべき存在であろう。 日本がこのまま輸出一辺倒の産業構造を維持し続ければ、際限なく円高は進み、 製造業は外国に移転して空洞化し、国際的な発言力も低下していくことが目に見えている。 冷戦時代には日本は共産主義国に対する防波堤として優遇されたが、 今後は内需を増やしていかないと、中国に国際社会での発言権を奪われてしまう可能性が高い。

最初に述べた財政の整理が、内需中心の産業構造への転換のきっかけになれば良いと考えている。 金利の動向次第だが、上で述べたような事態が今後10年ぐらいで起きると考えている。 いずれにしても、かなり高率のインフレが来るのは間違いないと思う。

ところで、特別会計の闇を追及して殺された石井紘基代議士は、 特別会計を含めた実際の政府支出がGDPの50%にものぼることを明らかにした。 つまり、日本経済は官需を中心に、政府から特殊法人へ、 特殊法人からその子会社や孫会社へと資金が流れることで動いており、 そうやって輸血をし続けないと生命が維持できない体なのである。 要するに、日本経済の実態は社会主義国の計画経済と大差ないということになる。 更に官需には無数の民間企業がぶら下がっている。 そこに様々な利権がからんでいるのは言うまでもない。 例えば、官僚は天下りの見返りに各種の便宜を図り、政治家は公共工事の口利きで献金を受け取る。 もちろん国家のことを誠実に考えて、真面目に仕事をしている政治家や官僚がほとんどだろうけど、 一部の、官僚、政治家、企業、右翼や暴力団などが国家財政に寄生して食い物にしているのが現状だろう。 彼らは既得権益を守るため、あらゆる規制を張り巡らせて新規参入者を締め出し、 自由な競争を阻害している。この構造を崩壊させて真に民間主導の経済システムを作らないと、 本当にこの国には未来は無いと思う。

マスコミは肝心なことは何も報道せず、官僚のリークを無批判に垂れ流すだけで、 石井代議士のように真実に迫ろうとした人はあっさりと闇社会に殺されてしまう。 現実は、報道の自由も表現の自由もいつの間にか消滅している、そんな冷え冷えとした世の中なのである。 何か利権にからむ事件があるたびにジャーナリストや関係者が変死する、 本当にこの国は民主国家かと暗澹たる気分になるね。 殺される半年前に石井議員は手紙で以下のように書いている。
「これにより不都合な人は、沢山いますので、身辺には十分注意しますが、 所詮、身を挺して闘わなければ務まらないのが歴史的仕事ということでしょうから、 覚悟はしていますが、それにしても、こんな国のために身を挺する必要なんてあるのかな、 との自問葛藤も無きにしもあらずです。日本よ!滅ぶなかれ!」


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