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完全市場

現物価格と先物価格

理論的には、先物価格は納会が近付くにつれて現物価格に収束するとされています。 実需家にとって、もし先物価格が現物価格より安ければ、先物市場で買いを入れて納会で現物を受け、 現物市場で売却すれば利益が出ますし、逆に先物価格が現物価格より高ければ、 現物市場で現物を調達し、先物市場で売りを入れて納会で渡せば利益が出るわけで、 もし先物市場と現物市場が乖離していれば、両者が一致するような方向に裁定が働くという理屈です。

しかし実際には、現物価格と乖離した納会がしばしば見受けられます。 以下は極端な例ですが、横浜馬鈴薯の65円暴落納会と、大阪ニッケルの3330円暴騰納会の様子です。

横浜馬鈴薯2004/042004/052004/062004/072004/08200409
2004/04/09243326692290279014251040
2004/04/12243227402191276414091055
2004/04/13224926412091266414281019
2004/04/14235926802063256414001019
2004/04/15652580196324641325945

大阪ニッケル2006/072006/092006/112007/012007/032007/05
2006/07/18271726582705266026372610
2006/07/19271726582649260025772550
2006/07/20271727002630256125752521
2006/07/21271727002610254125202495
2006/07/24333027402669259925502472

納会時に限らず平時の相場においても、輸入採算より割安な状態や、 現物価格より割高な状態が継続する事が多々あります。 そのような状態を見て、相場がおかしいとかインチキ市場だとか言う方がおられますが、 それはそれなりに理由があってそうなっているのです。

実需家の視点

先物価格が現物価格に収束するという理屈は、現物市場が完全市場であるという仮定に基づいています。 完全市場とは、一物一価、つまり物の値段は一つであり、 売りたい人はいつでも買い手を見つけることができ、 逆に買いたい人はいつでも売り手を見つけることができ、 さらに取引に際して費用がかからないような理想化された市場の事を言います。 しかし実際にはそのような仮定は成立しません。

商社の視点で考えてみます。 商社と言うのは、基本的には商品を仕入れて、それを転売する事によって利鞘を稼ぐわけですが、 その利幅は商品本体の値段に比べると僅かであると言われています(数%から場合によっては1%以下)。 そのため、いくら掘り出し物があっても、転売先を確保せずに先に商品を仕入れてしまう事はありません。 もし転売先を見つける事が出来ずに不良在庫を抱えてしまうと大きな損失になるからです。

今、先物市場でトウモロコシの期近が安いとします。 トウモロコシは本船渡しなので、商社がこれを受けるには、まずトラックと倉庫を確保しなければなりません。 それと同時に養鶏業者などの転売先を見つける必要があります。 倉庫を借りたりトラックを手配したりする場合、長期契約なら安く済んでも、 急に用意するには割高な費用が必要でしょう。 また、養鶏業者なども、飼料などは普段契約している所から買いますから、 急に話を持ち込んでも、よほど安くないと買ってくれません。 つまり、納会が近い場合(正確には受け渡し日が近い場合)には、 値段が通常より大幅に安くならない限り現物を受けるメリットが発生しないという事になります。 これが納会まで時間のある期先なら、受け前提で買いを入れても、 商社の通常の物流に組み込めますので問題はありません。

次に、受け前提の買いが既に期近に入っている状態を考えます。 この時、もし期近が現物価格より大幅に割高になった場合は、 その買いを差金決済してしまい、転売先には別のルートで入手した現物を渡せば利益を出すことができます。 ただし、急に現物を手配するには割高なコストがかかりますので、逆に言うと、 受け前提の買い玉は、よほど割高にならない限り予定通り現受けされる事になります。

以上は現受けの話ですが、現渡しも同様です。 期近がいくら高くても、現物を手に入れないと渡せません。 通常、都合良く遊んでいる現物などは無く、 ほとんどの現物があらかじめ決められた物流ルートに乗っていますので、 そこから急に調達してくるにはコストがかかります。 逆に、既に渡し前提で売りが入っている場合には、現渡しを中止するなら他に転売先を探さねばなりませんので、 よほど割安にならない限り現物は渡されることになります。
現物ヘッジと鞘

結局、以上で述べたような理由により、 期近に回るほど新たな実需のヘッジが入り難くなり、 その結果、現物価格から乖離しても修正され難くなります。 期中から期先にかけてはヘッジが入りますが、それは期近に回るにつれて固定化され、 鞘に影響を与えることになります。

鞘の形成には期近の要因と期先の要因が影響しますが(詳細は次節から解説します)、 期先や期中が割高になれば実需の売りヘッジを浴びて将来の順鞘の要因になり、 期先や期中が割安になれば実需の買いヘッジが入って将来の逆鞘の要因になります。

ここではトウモロコシで説明しましたが、銘柄によっても事情は違います。 例えば、金などは当限でもヘッジが入りますので、納会が近付くにつれて現物価格に近付きます。 よって金については期近要因による鞘はほとんど存在しません。
期近に対する新規ヘッジ

期近に回るほど実需のヘッジが固定化し易い理由を説明しましたが、 ヘッジが全く動かなくなるわけではありません。 例えば、キャンセル品の処分先として期近にヘッジされる事は有り得ますし、 急に現物が必要になり、期近に買いを入れて現受けすることも有り得ます。

数ヶ月先に需要があり、現在の当限価格が数か月分の保管費用を考慮しても割安なら、 急に受ける場合も有ります。 トウモロコシは本船渡しなので無理ですが、ゴムやコーヒーの場合は、 当限と2番限の鞘が保管費用以上に開いている場合、 当限での渡しを中止して新たに2番限に売りヘッジすることもあります。

取引所同士の影響もあります。別の先物市場で渡すつもりの荷物が流れてくる、 もしくは、その逆のパターンも考えられます。

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